夢の「ワイン列車」は乗客全員が酔っ払い!? ナパバレー編〈1〉

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夢の「ワイン列車」は乗客全員が酔っ払い!? ナパバレー編〈1〉
文と写真:江藤 詩文
朝日新聞2011年11月14日
http://www.asahi.com/travel/paradise/TKY201111130086.html


 秋も深まり、新酒の季節になりました。ひやおろしが出回り、ヌーボーの解禁は目前。今年の味はどうなんでしょう。楽しみですね!

 酒を飲む人と飲まない人。世の中には大きく分けて2種類の人間がいるのだ、な~んて。しかし、このふたつのタイプは深く隔たり、それぞれの中でのみ流通する情報があると思うのは、私だけでしょうか。

 いわば”酒飲み界”で数年前から耳にする、夢のような列車がありました。

その名も「ナパバレー・ワイントレイン」。まんま直球のネーミングです。飲み仲間いわく

「ブドウ畑の中を走る列車で」


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こまでも整然と続く美しいブドウ畑。ここから世界に名を馳せる多くのワインが生まれる。

「日本では見かけない銘柄もたくさんあり」

「テイスティング・バーもあり」

とにかくワインをたっぷり飲みまくる。しかも「料理はワインに合わせたカリフォルニア・キュイジーヌ」。う~ん、そそられます。

そんなステキな列車に思いを募らせていた折も折、そのワイントレインで働く元気いっぱいの日本人ガール・ユリちゃんに、なんと東京で出会ってしまいました。

 「ワイントレインは、酔っ払いのための列車なんかじゃありませんよ~」。

 口をとんがらせるユリちゃん。「1910年代に造られた、そりゃ素敵なアンティークな車両が実際に走っているんですから。世界中の鉄道ファンに注目されているんです」。

 「!」

 ユリちゃん、あなた今ツボを突きました。前回もお伝えしたように、私は乗り物に乗って、何かを飲んだり食べたりするのが大好き。行こう、行こう、ナパバレー。乗ってみましょう、ワイントレインに。


大人のための極上の遊び場

 ナパバレー・ワイントレインは、ワインの産地として名高い、米国カリフォルニア州ナパバレーを走る鉄道です。ナパを出発して北上し、カリフォルニア州におけるワイン醸造の発祥地といわれるセント・ヘレナまで往復約59km。約3時間かけて、有名ワイナリーのブドウ畑が広がる中を、のんびり走行します。


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ナパ駅にゆったりと姿を現したワイントレイン。風格があります。

 この観光列車に乗車するのは、世界中から集まったワイン好き(の乗りテツ)。旅が始まるナパ駅は、ナパの街の中心地から徒歩10分ほどのところにあります。朝10時15分。ほぼ定刻に到着してみると、すでにドレスアップした人、人、人がいっぱい。駅の待合室では、乗車前に簡単なワインセミナーが開催されるため、みんな早くから集合しています。


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カリフォルニア美女がお出迎え。サービスも行き届いています。

 スピーチ上手な講師は笑いをとりまくり、乗客は「試飲」と称してワインを飲み始め、なんだか日本人がワインセミナーと聞いて想像する堅苦しさは一切なし。まるでトークショーを見ているよう。みんながいい感じに盛り上がったところで、いよいよ乗車です。

 ホームに向かいかけると、ん?金網に付けられた、たくさんの錠前に目がいきます。なんでもカップルがここに鍵をかけると、永遠に一緒にいられるという都市伝説があるとか。そういえば周囲にはカップルが多いこと。スーツで決めたイケメンとグラマラス美女の20代カップルもいれば、銀色に輝く髪がまぶしいシルバー世代の夫婦も。

 乗客は、北米を中心に南米とヨーロッパからの人が多く、アジア系は少数派。迫力ある大人たちが「さあ、飲むぞ」と楽しむことを目的に集まっているんですから、その熱気のすごいこと。

 車両は11両編成で、座席は3クラス制。今回はユリちゃんの裏工作(?)により、最上位カテゴリーの展望車両「ビスタ・ドーム・カー」に乗り込みます。座席が指定された車両のほか、テイスティング・バーがある車両や、窓に向かって座席を配したラウンジ車両など、共有スペースもあります。

 階段を上がって指定されたテーブルにつくと、壁から天井にかけて大きな窓。カリフォルニアの輝く陽射しが差し込み、シートが高い位置にあるため視界が広く、気持ちいいったらありません。そして、なんとお隣りは、イタリアのジェノバから来た新婚さん。甘~い空気に当てられ、ついカメラを向けてふたりの世界を邪魔してみました。ウェルカムドリンクにカリフォルニア産スパークリングワインが注がれ、いよいよ列車は動き出します。

うんちく無用!愛に満ちた「ラブトレイン」

 フルートグラスに注がれたのは、シルキーでなめらかな泡が美しい「マム・ナパ」。F1の表彰台でシャンパン・ファイトに使われる、赤いリボンが斜めにかかったようなデザインのボトルがありますよね。あのシャンパンを醸造しているフランスの会社が、ナパで造っているスパークリングワインです。

 お待ちかねのカリフォルニア・キュイジーヌは4皿のコースでした。オードブルと一皿目はそれぞれ2種類から、メインは5種類からチョイスします。ナパは海が近く、魚介類が豊富。しかも料理長のケリー・マクドナルドさんは地中海料理を学び、シーフード料理が得意とくれば、ここは魚貝しかないでしょう。私は「ホタテの貝柱と海老のグリル」をオードブルに、「季節の野菜をたっぷり付け合わせたフレッシュ・サーモン」をメインにセレクトしました。ふっくらとジューシーなサーモン。軽く酸味を効かせたさっぱりした味つけで、軽めの白ワインがどんどん進みます。


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料理はほとんどをキッチンカーで調理。できたてのものがスピーディに供される。


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メインに選んだサーモン。フレッシュな野菜がたっぷり添えられていて、柑橘系の酸味がワインとよく合いました


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サーモンもよかったのです。が、同行者のラムチョップは筋繊維がなみなみと肉汁を含み、骨を持ってかぶりつくとほんのり干し草の香りがして、肉の旨味が抜群でした

 走り始めてしばらくすると、右手にも左手にも広がるブドウ畑。左手には日本でも有名なフランスのシャンパーニュ「モエ・エ・シャンドン」を持つ会社が手がける「ドメーヌ・シャンドン」が。ちなみにドンペリもこの会社のシャンパーニュです。

右手には、スーパー・プレミアム・ワインとして日本でも名高い「オーパス・ワン」。お高いワインですが、一生に一度くらい味わってみたいものです。

 おっと、その先の左手には、世界一のシャルドネと称される「ガーギッチ・ヒルズ」が。アメリカ人なら誰もが肩をそびやかし、フランス人は顔をしかめる、1976年の「パリスの審判」。ブラインド・テイスティングで、フランスの高名なワインがカリフォルニアの無名ワインに負けたというできごとの立役者となったワイナリーです。右手には、乾杯スパークリングの「マム・ナパ」も見えます。

 な~んて…能書きはどうでもいいですね。

乗車するまで、私は「ワイントレインなんかに乗る人は、さぞワインに精通しているのだろうよ。あっちでもこっちでも、まるで西麻布あたりのワインバーみたいに知識をひけらかす人がいて、経験を値踏みされることよ」と半分覚悟していました。でも、実際にはそんな人はゼロ。日本では鼻で笑われる「おいしー」「楽しー」でまったく問題ありません。

 代わりにというか、語らない分だけみなさんまあ、よく飲むこと。ふたりで赤白各1本のボトルを注文するなんてザラです。グラスでいろいろ飲み比べたい人が集まるのは、テイスティング・バー。30種類以上のワインがグラスで飲めるとあって、次から次へとオーダーが入ります。


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テイスティング・バーでは、10ドル(約790円)で4種類のワインのテイスティングができます。好みを聞いてすぐさま的確なワインを選び出すのは、ソムリエのマイクさん

 はじめはカップルが目に付きましたが、女性同士のグループや家族など、乗客はさまざま。話してみると、誕生日など記念日のほか、友だちを励ましたり、離れて暮らす家族が集まるきっかけとなっていたり。みんな、好きな人と来ているから、こんなに幸福そうなんですね。

 飲んで、食べて、しゃべって、笑って。笑ってまた飲んで。時が経つにつれ酔いが回り、車内のテンションはどんどんヒートアップします。それなのに。誰もがポジティブな目的で集まっているためか、これだけ飲んで酔っ払っても、愚痴を言って暗い表情をしたり、酔い潰れて醜態をさらしている人が、まったくいないのです。

 まるで時を慈しむように楽しい時間を共有する乗客と、それを演出するワイン。「欧米人は肝臓が強いから、それを割り引いて考えても…なんて愛が豊かな空間なことよ」と思わずため息をつきました。

 そう、お酒は楽しく飲まなくちゃ。「これからは酒で憂さ晴らしをするまいよ」と自分を厳に戒めた私です。これから忘年会シーズン。みなさんも好きな人とお酒を酌み交わし、愛に満ちた時間を楽しんでくださいね。


「ナパバレー・ワイントレイン」のデータ

1952年に製造された展望車両に乗り、料理4皿コースとグラスでスパークリングワインがつく「ビスタ・ドーム・カー」は129ドル(約10200円)、1915年から1917年製のアンティーク車両に乗り、3皿コースがつく「グルメ・カー」99ドル(約7800円)、オープンエアでウエスタン風の車両に乗り、カジュアルにバーベキュー料理を楽しむ「シルバラード・カー」89ドル(約7000円)の3つのクラスから選ぶ。昼夜同料金。他にワイナリー巡りを組み合わせたツアーやイベント運行もある。通貨はアメリカドルで1ドル=約79円(データは2011年10月取材時)。

(取材協力:ナパバレー・ワイントレイン)


プロフィール
江藤 詩文(えとう しふみ)


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旅とお酒と食文化を愛するフリーライター。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。慌ただしい日常の中、心のどこかでふと思いをはせるだけで気持ちが和む「楽園」を探す「楽園ハンター」として、世界のどこかから幸せな気分になれるあれこれをお届けします。


ガーギッチ・ヒルズ


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時は1976年。フランスワイン以外の評価が低かった時代に行われたブラインドテイスティング。フランスワイン界の重鎮たちが審査員という状況の中でので圧勝したのはカリフォルニアワインだった…そんな後世にまで語られる「パリ事件」でトップをとったモンテリーナ・シャルドネを手掛けたマイク・ガーギッチ氏。「キング・オブ・シャルドネ」と称される彼のワイナリーからの逸品をぜひ堪能してみては?




オーパス・ワン


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日本でも人気の高いオーパス・ワン。バロン・フィリップ・ドゥ・ロスシルド社とロバート・モンダヴィ社の提携によって誕生。香りの高く甘いナパの葡萄と最新技術、フランスの伝統のワイン造りの技術の結集ともいえる、最高品質のワインをぜひ一度味わってみたい。





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ドメーヌ・シャンドン


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高級シャンパンというと真っ先に浮かぶのはドン・ペリ。そのドン・ペリを手掛け、250年以上の歴史を誇るモエ・エ・シャンドンが、カリフォルニアのナパの地で造るのがこちらのスパークリングワイン。シャンパンと同じ瓶内二次発酵方式で造られており、製法が確かでありながらリーズナブルなのもとてもうれしいポイント。

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