原発が止まると悪影響が出る客観的根拠を聞いたことがない 『津波と原発』佐野眞一著(講談社刊)

原発が止まると悪影響が出る客観的根拠を聞いたことがない
NEWSポストセブン2012.01.31 16:00
http://www.news-postseven.com/archives/20120131_82086.html


「原発が止まると電力が不足し、電気代は高騰する」――そんな理屈が原発推進派は語るが、果たしてこれは正論か? ノンフィクション作家の佐野眞一氏が斬る。

* * *
政・官・財、そして何も伝えないメディアという癒着構造のド真ん中に、いかにして日本の原発がビルトインされたか。

その経緯と構図を、私は被災地を歩きながら自分の目と足で確かめ、近著『津波と原発』(講談社刊)の中で検証した。癒着のド真ん中ということは、この社会のド真ん中に原発がビルトインされたということと同義である。それは言い換えれば、経済活動から国民生活に至るまで、日本の戦後が「原発ありき」でなければ成立しなかったという意味である。

『津波と原発』佐野眞一著(講談社刊)


画像



津波と原発
講談社
佐野 眞一

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 津波と原発 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



かつて私は「野球の父」にして「テレビの父」、そして「原子力の父」でもあった正力松太郎やその影武者・柴田秀利が原発導入に果たした役割を『巨怪伝』(文藝春秋刊・1994年)に書いた。

しかしながら原爆を落とされた国の復興を原子力に託した彼らの切望を、いかにそれが利権含みとはいえ、今もって一方的に非難する気にはなれない。その恩恵に与ったのは年がら年中明るい街をありがたがる我々国民であり、誰もが直接的・間接的に原発ありきの社会を容認してきた当事者だからである。

だが、そこにこそ罠がある。例えば「原発なくして現在の生活は成り立たない」という“脅し文句”を彼らが用いる時、一度でも数字的裏付けが示されたことがあるだろうか。

あるいは最近よく聞く「原発の長期にわたる停止は、雇用に悪影響を及ぼす」という理屈でもいいが、少なくとも彼ら財界であったり経産省であったり東京電力であったりの口から、原発を止めるとどう雇用に影響して、日本経済はどの程度落ち込むのか、客観的な根拠を伴った説明を聞いた例しがない。

それでいてソフトバンクの孫正義のように自然エネルギーに活路を見いだそうとする人々に対しては「そんなものでまかなえるはずがない」と、ひどく断定的に切って捨てるのは、どう見てもフェアな態度とは言えない。

全ては“原発神話”や都市伝説の類に便乗した脅しに過ぎないかもしれず、彼らが煽る口裂け女的恐怖を退けるには、まず伝説の成立経緯を検証し、脅しに対抗できる傍証を得ることが必要になる。その点、我々が従来持ち得たのは「原子力の発電コストは1kWhあたり5.9円で安い」という事業者サイドから出た数字だけだった。

昨年末には政府のエネルギー・環境会議が新たに事故対策費用や交付金も加味した「最低でも8.9円」という試算を出してはいるが、「電気料金の値上げは事業者の権利である」などと恥ずかしげもなく言い抜けて20%もの値上げを打ち出す電力会社に対し、我々国民は、感情的にしか反論できずにいる。

こうした“思考停止”こそ、我々が「3・11」以降に課せられた最大の問題である。日本の高度経済成長は、原発なしでは達成できなかった。こうした検証抜きの言説に対し、胸に手を当てて、静かに考えてみる必要がある。そうでなければ、大津波で2万人近い尊い命が奪われ、何十万人もの人が故郷を喪失するかもしれない未曾有の震災体験が無になってしまうからである。今こそ、原発の呪縛から解放されなければならない。

例えば私が子供の頃は黒いダイヤと呼ばれた石炭をめぐって、埋蔵量がどれくらいで、あと何年もつかなど、数値が介在した議論が広く行なわれていた。ところがこと原発に限ってはそうした手順が踏まれた形跡がない。いわば、なし崩し的に導入された原発が、今はまたなし崩し的に再稼働へと動き出そうとしているのである。

(文中敬称略)

「津波と原発」 佐野真一著(講談社 1,575円)


津波と原発
楽天ブックス
佐野真一 講談社発行年月:2011年06月 ページ数:254p サイズ:単行本 ISBN:97840


楽天市場 by 津波と原発 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


商品情報
・発売日: 2011年06月
・サイズ: 単行本
・ページ数: 254p
・ISBNコード: 9784062170383

【内容情報】
日本の近代化とは、高度成長とは何だったか?三陸大津波と福島原発事故が炙り出す、日本人の精神。東日本大震災にノンフィクション界の巨人が挑む、書下ろし四〇〇枚。東日本大震災ルポの決定版。

【目次】
第1部 日本人と大津波(重みも深みもない言葉/志津川病院の中に入って/おかまバーの名物ママの消息/壊滅した三陸の漁業/熱も声もない死の街 ほか)
第2部 原発街道を往く(福島原発の罪と罰/原発前夜ー原子力の父・正力松太郎/なぜ「フクシマ」に原発は建設されたか)

【著者情報】
佐野眞一(サノシンイチ)
1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞

※SAPIO2012年2月1・8日号




ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック