東京新聞2012年5月20日社説…週のはじめに考える 欧州の分断を選ぶのか

【社説】
週のはじめに考える 欧州の分断を選ぶのか
東京新聞2012年5月20日


 「まるでギリシャ語のようだ」と英語で言うと、不可解、という意味になるそうです。昨今のギリシャ情勢は、欧州分断の芽をも孕(はら)んでいます。

 現代ギリシャの通史を描いた著書が評判の法政大学講師、村田奈々子さんの講演を伺う機会がありました。

「物語近現代ギリシャの歴史 独立戦争からユーロ危機まで」(中公新書) 村田奈々子著(中央公論新社 903円)


物語 近現代ギリシャの歴史 - 独立戦争からユーロ危機まで (中公新書)
中央公論新社
村田 奈々子

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 物語 近現代ギリシャの歴史 - 独立戦争からユーロ危機まで (中公新書) の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


オスマン帝国の支配、列強の領土干渉、そしてヨーロッパ文明を開いた偉大な過去に振り回される、ギリシャの一五〇年を振り返る。

物語近現代ギリシャの歴史
楽天ブックス
独立戦争からユーロ危機まで 中公新書 村田奈々子 中央公論新社発行年月:2012年02月 予約締切日


楽天市場 by 物語近現代ギリシャの歴史 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


商品情報
・発売日: 2012年02月
・サイズ: 新書
・ページ数: 292p
・ISBNコード: 9784121021526

【内容情報】
ヨーロッパ文明揺籃の地である古代ギリシャの輝きは、神話の世界そのままに、人類史の栄光として今も憧憬の的であり続けている。一方で現在のギリシャは、経済危機にあえぐバルカンの一小国であり、EUの劣等生だ。オスマン帝国からの独立後、ギリシャ国民は、偉大すぎる過去に囚われると同時に、列強の思惑に翻弄されてきた。この“辺境の地”の数奇な歴史を掘り起こすことで、彼の国の今が浮かび上がる。

【目次】
第1章 独立戦争と列強の政治力学(一八二一ー三二)
第2章 コンスタンティノープル獲得の夢(一八三四ー一九二三)
第3章 国家を引き裂く言語
第4章 闘う政治家ヴェニゼロスの時代(一九一〇-三五)
第5章 「兄弟殺し」-第二次世界大戦とその後(一九四〇-七四)
第6章 国境の外のギリシャ人/終章 現代のギリシャ

【著者情報】
村田奈々子(ムラタナナコ)
1968(昭和43)年、青森県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。同大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。ニューヨーク大学大学院歴史学科博士課程修了。PhD.現在、法政大学非常勤講師


 ギリシャの政治的混迷が収まらない。西欧文明の源泉であり、民主政治の発祥地であるギリシャで、欧州の自傷行為とも映る政治劇が繰り返されるのはなぜか-。

◆古代と現代を結ぶ線

 私たちが往々にして抱きがちなこうした問い自体に、実は現代ギリシャと昔日のギリシャを直接つなげてしまう思い込みがあるのではないか。その示唆に富む講演を聞いて、ギリシャ人のアイデンティティーの半分はもともと西欧にはなかったことにあらためて気が付かされました。

 現代ギリシャ人がアイデンティティーを求める対象として二つの歴史的源泉がある、と村田さんは指摘します。古代ギリシャと中世のビザンチン帝国(東ローマ帝国)です。人類普遍の文明を生んだ栄光の歴史と、ビザンチン帝国を築きながらオスマントルコに支配された屈辱の歴史といえます。

 古代ギリシャ哲学や文学は私たちになじみ深いものですが、その精華は直線で現代の西欧に結び付いているわけではありません。西ローマ帝国が滅亡した後、東ローマ帝国に継承されたものが、いったんイスラム圏に受容され、さらに十字軍を経て再発見される、という遠大な過程を経ています。

 この間、蛮族に脅かされた西欧は長く「文化果つる辺境地」でした。西欧的価値観の淵源(えんげん)とされるギリシャ古典が、イスラム圏を経由して西欧に伝えられたことは、キリスト教とイスラム教の関係に今も深い陰翳(いんえい)を刻んでいます。

◆ギリシャの欧州愛憎

 中世ギリシャ人のアイデンティティーを担ったのはギリシャ正教でした。ギリシャ正教を主とする東方正教会ほど日本人になじみの薄いものもないでしょう。

 オーストリアのカトリック修道院で、ギリシャ正教の神秘的な側面を象徴するとされるヘシカスム(静寂主義)研究をしていた司祭に話を伺ったことがあります。

 「徹底した沈黙を通して心の静寂を得る静寂主義の思想には、仏教に通じるものを強く感じます。特に禅との共通点を感じざるをえません」。意外な説明は、もともとキリスト教がオリエント地域の宗教であることを想起させてくれるものでした。

 日本における東方正教会である日本ハリストス正教会の司祭、高橋保行さんは、その著書「ギリシャ正教」で、「キリスト教は西欧が源泉、という考えは西欧の錯誤だ」と記しています。

 東方正教会からすれば、キリスト教やギリシャ古典は、コンスタンチノープル(現イスタンブール)が首都であったビザンチン帝国こそ嫡流なのであって、西欧は後になって自身の権威付けのためにそれを借用した、という論理になるというのです。

 ギリシャは十九世紀になってようやく独立しましたが、その近代国家としての歩みは過去の栄光とは程遠く、欧州の周縁にあってロシアやトルコなど周辺大国との緩衝国家として翻弄(ほんろう)され続けるものでした。第二次大戦で被ったナチスによる侵略もその一例といえるでしょう。

 現代ギリシャが西欧に抱く愛憎半ばする心情は、欧州の基層を担いながら、二級市民のような視線に晒(さら)される東欧やバルカン諸国の悲哀に通じるものがあります。

 古代、中世ギリシャ研究に比べ近現代ギリシャを研究する専門家は極めて少ないそうです。そのせいもあるでしょう、ギリシャ危機が語られるのは経済的文脈、それも、国際基準となっている英語圏主流のマクロ経済の文脈に沿ったものが専らです。

 この文脈で語られることに甘んじる限り、現代ギリシャは「支援に甘える欧州の依存症患者」というイメージから免れそうにありません。

◆限られている選択肢

 ギリシャ政局は再三の連立交渉も虚(むな)しく、結局再選挙という結果になりました。「これ以上の緊縮策は御免だ。でもユーロ圏離脱もやっぱり、いや」。国際社会、金融市場を困惑させるその民意を文字通り通そうと望むのなら、選択肢は限られています。

 ギリシャを含むバルカン地方から西欧に向かうことを、かつて「ヨーロッパにいく」と言ったそうです。すでに欧州の真っただ中に回帰しているギリシャです。統合欧州とともにギリシャ次世代のアイデンティティーを模索していく道こそ、欧州の知恵ではないか、と思えてなりません。





ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック