長谷川幸洋「ニュースの深層」…「増税実現ならばらまきOK」が財務省の本音

「増税実現ならばらまきOK」が財務省の本音。
増税賛成の旗を振ったマスコミがいまさら批判しても所詮は"ポチの遠吠え"だ!

現代ビジネス2012年07月27日(金)長谷川幸洋「ニュースの深層」



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財務省の狙いは初めから消費増税実現のただ1点

 消費税引き上げ法案の参院審議が進み、いよいよ採決が近づいてきた。早ければお盆前の8月上旬にも採決され、民主、自民、公明3党の賛成多数で可決、成立しそうだ。衆院の解散時期をめぐる駆け引きから土壇場でひと波乱あるかもしれないが、基本的には増税を決めた後、秋に事実上の「話し合い解散」というシナリオが強まっている。

 それは次のような理由からだ。

 まず、野田佳彦政権はできる限り解散時期を遅らせたい。内閣支持率も民主党支持率も低迷している中、解散を急げば、衆院での過半数割れは避けられない。政権の座から滑り落ちるのは確実とみているからだ。

 野田政権に反旗を翻して離党した元代表・小沢一郎率いる「国民の生活が第一」も増税には反対しているが、解散・総選挙を遅らせたいのはこちらも同じである。選挙地盤が固まっていない新人、若手議員が多く、解散されてしまえば「再び永田町に戻ってこられない」と恐れている。

 ここは自爆覚悟で解散を迫れば、主張に迫力が出てくるのに「生活」の議員からは、どうも歯切れのいいセリフが聞こえてこない。背景には選挙に負けて議員バッジを失うより、時間を稼いだ方が得策という判断がある。

 いまは「政策を固めている最中」(「生活」幹部)らしいが、反消費税、反原発、反環太平洋連携協定(TPP)などと、すべて反対一色の主張を並べるようだと、支持は広がらないだろう。基本的に、政策とは「○○をします」という主張でなければならない。「○○に反対します」だけでは、せいぜい現状維持が関の山で、国の未来を描く話にならないからだ。既得権益も打ち破れない。

自己実現的に肥大化する官僚機構

 脱線した。自民党はどうか。

 自民党は解散・総選挙を求め続けていたが、実は増税実現も捨てがたい。なぜかといえば、民主、公明両党とまとめた「3党合意」で公共事業の大盤振る舞いが盛り込まれたからだ。増税が実現しないと、この話がパーになってしまう。

 まずは増税を決め、手にした財源を元手に2012年度補正予算と13年度予算でしっかり公共事業をばらまいたほうが選挙でも有利とみている。この筋書きは自民、公明両党と財務省との合作だ。

 3党合意は確認書で「財政による機動的対応が可能となる中で、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する」という文言を増税法案の附則18条に追加することを盛り込んだ。

 増税の本音はここにある。財務省は民主党政権ができる前から社会保障財源の安定化を増税の大義名分に掲げてきたが、本当の狙いは初めから消費増税実現のただ1点だった。

 当たり前の話だが、カネに色はついていない。国の予算では社会保障関係費が3割弱を占め、伸び率も毎年1兆円と大きいから「増税で得た財源は社会保障に充てる」と説明してきたにすぎない。しかも、年金や介護の財源なら「これは国民に還元するおカネです」という耳障りのいい話にもなる。

 財務省はなぜ増税を実現したいか。究極的に言えば、自分たち官僚が使える財布が膨らむからだ。懐に余裕がなければ、地方にも議員たちにもゼネコンにもばらまけない。それでは自分たちの既得権益が維持できない。官僚機構は自己実現的に肥大化する。政府の役割、仕事が大きくなって初めて、自分たちの権限も存在意義も高まる。増税は官僚がますます偉くなるために不可欠の仕掛けなのだ。

官僚利権を確実にするための増税

 消費税を引き上げるためには社会保障を持ち出せばいい、と決まったのはいつか。いまから13年前だ。1999年の予算総則で初めて「基礎年金、老人医療、介護に係る国庫負担は国の消費税収(地方交付税の法廷率分29.5%を除く)を充てる」と記された。

 それ以降「消費税引き上げは社会保障のため」という路線が着々と進められ、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が2007年11月にまとめた08年度予算編成への建議では「社会保障給付費のための安定的な財源の確保が必要である」としたうえで「国民共通の課題として今後、早急に本格的な議論を進め、消費税を含む抜本的な税制改革を実現させるべく取り組んでいく必要がある」と書き込んだ。

 ちなみに、私自身もこの建議をとりまとめた張本人の1人だ。私は05年から08年まで財政審の臨時委員を務めていた。先の07年建議にも委員名簿に私の名前がある。いまでこそ増税に反対しているが、かつてはばりばりの増税派だったからこそ委員に収まったのだが、振り返ってみると、05年時点ですでに「社会保障財源は消費増税で」という路線は完全に固まっていた。

 社会保障財源をいうなら保険料引き上げもあるし、税で賄うとしても消費税以外に所得税とか法人税とかいろいろある。だが、そんな「そもそも論」はとっくに議論の外にあったのだ。

 それからすれば、公共事業のために消費増税などというのは論外もいいところであるはずだ。それが、いよいよ増税が実現しそうな土壇場にきて本当の話になりそうな雲行きだ。実際に国土交通省は増税法案が衆院を通過した途端、北海道と北陸、九州・長崎の整備新幹線3ルートの着工を決めてしまった。これで3兆400億円である。

 自民党は3党合意を錦の御旗に「10年間で200兆円」、公明党も「10年間で100兆円」と大手を振ってばらまき大盤振る舞いを言い始めた。なぜかといえば、一番の抵抗勢力だったはずの財務省が容認する姿勢を示しているからだ。

 財務省が財政支出拡大に反対してきたのは、あくまで増税実現の先行きがみえない限りにおいての話にすぎない。自公両党の賛成さえ確実にすれば増税法案が通るとなれば、公共事業をお土産にするくらい、なんでもない。ばらまきで自分たちの官僚利権を確実にする、そのための増税だったのだから、ばらまきOKである。

国民から税金を集めて使うのが官僚の仕事

 こうなると、みっともないのは増税に旗を振ってきたマスコミである。

 たとえば、朝日新聞は7月22日付社説で「『防災』便乗は許されぬ」と題して「社会保障と税の一体改革で消費増税の道筋がついたいまこそ、予算の使い道を吟味しなければならない」「このままでは公共事業のための増税になりかねない」と批判した。

 毎日新聞も7月23日付社説で「規律が緩んでいないか」と題して「一体改革は必要だが、ただ通せばいいというものでは決してない」「(野田首相の国会答弁は)間接的に消費税がコンクリートに使われるのを容認するものではないか」と書いた。

 チャンチャラおかしい、とはこのことだ。なにをいまさら言っているのか。

 財務省の狙いが増税だけにあることに気がつかず、あるいは気づいていながら知らないふりをして、増税に大賛成してきた。ところが最後になって、いよいよ公共事業のばらまきが始まると分かると「予算の使途を吟味せよ」だの「規律が緩んでいないか」などと言い出す。

 財務省は初めから、実はばらまきOKなのだ。そうでなければ、官僚の仕事が減ってしまう。官僚は国民から税金を集めて使うのが仕事である。だから本来なら、まずはいまの仕事に無駄や非効率がないかどうかを徹底的に調べる、あるいは役所そのものを解体再編してリストラする。それが財政再建の普通の手順になる。

 あるべき「国のかたち」をゼロベースで考えるなら、いまの霞が関・中央集権体制が国の発展と国民生活の向上に必要かどうか、それこそが最初の課題に設定されなければならない。

 そういう根本の議論を全部すっ飛ばして、ひたすら財務省にゴマすってきた。それが大新聞の論説委員たちである(私もその1人だったのはもう書いた。なぜ転向したか、に興味のある向きは『官僚との死闘七〇〇日』講談社、08年など参照)。

 増税賛成派の新聞がいまになって批判に転じる。それは「忠誠を誓ったご主人様に裏切られたポチの遠吠え」のようなものだ。

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