「タフネゴシエーター」千本会長からイー・アクセスを時価の3.5倍で買収したソフトバンク孫社長の勝算

電波オークションより一桁安い金額でプラチナバンドを手に!
「タフネゴシエーター」千本会長からイー・アクセスを時価の3.5倍で買収したソフトバンク孫社長の勝算

現代ビジネス2012年10月02日(火)町田徹「ニュースの深層」



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〔PHOTO〕gettyimages

 ソフトバンクの孫正義社長は1日、千本倖生会長の率いるイー・アクセスを株式交換で買収すると発表した。

 携帯電話業界を代表する2人の風雲児が合意した買収劇で、何よりも筆者が驚かされたのは、孫社長がイー・アクセスの株式に5万2000円という評価額を付けた点だ。この価格は、時価(9月28日終値)の実に3.45倍という常識では考えられない高い評価額である。

 この高値にこそ、この買収劇の成算を左右する鍵が隠されている気がしてならない。

 吉と出るのか、それとも凶と出るのか‐‐。今回と、来週の筆者の連載コラムの2回に分けて、きっちりと検証してみたい。

孫社長は、高値掴みをしたのだろうか

 「(我が社の)株主の皆様に対して、よいソリューションを提供できたのではないでしょうか」---。

 孫ソフトバンク社長と仲良く並んで記者会見に臨んだ千本イー・アクセス会長は、満面の笑みを浮かべて、自社の売却に胸を張ってみせたという。

 経営者として長年の願いが叶い、千本氏の胸に万感の思いがこみあげていたであろうことは想像に難くない。

 そのことは株価と売却額の差を見れば明らかだ。今回の買収劇によって、イー・アクセスの株主は、過去数カ月にわたって1万5000円前後で低迷していたイー・アクセス株と引き換えに、その3.45倍の5万2000円分のソフトバンク株を取得できることになったのである。

 この種のプレミアムは、時価に5-10%程度上乗せするのが一般的な相場だ。3.45倍というのは、異例中の異例。それだけに、買収劇を仲介した金融機関にも、「異常なほど情報管理に神経質になった」と打ち明ける向きがあった。

 公社時代の日本電信電話に入社したエリートの千本氏は、関西勤務の折、京セラの稲盛和夫社長に出会い、NTTの通信市場独占体制に風穴を開ける起業に夢を膨らませて、旧第2電電(旧DDI、現KDDI)の創業に名を連ねた。しかし、PHS事業の創業(旧DDIポケット、現ウィルコムの設立)時に大きなトラブルに直面し、稲盛氏と対立してDDIグループを去らざるを得なくなった。

 一時は学者への転身を図ったものの、ビジネスマンとしてNTTと互角に競える会社を育てる夢を捨てられず、ゴールドマン・サックスの花形通信アナリストだったエリック・ガン氏と組んで通信業界へのカムバックを試みた。そうして、1999年に設立したADSL事業中心の通信ベンチャーが、今回の売却対象になったイー・アクセスなのだ。

ハイリターンをもとめる株主にむきあってきた千本氏

 千本氏のタフネゴシエーターぶりは、若い頃から評判だった。「千のうち三つしか本音を言わない」という褒め言葉と名前を引っかけて、関係者が付けたあだ名は「センミツ」という。

 しかし、内外のプライベート・エクイティやファンドに創業資金を依存したため、典型的な日本のサラリーマン社長ならば経験しなくてよい、ハイリターンを求める株主の圧力にさらされ続けてきたことは見逃せない。

 一見華やかな東証マザーズへの上場(2003年10月)、同1部昇格(2004年11月)、モバイル事業への参入(2005年1月)も、一皮剥けば、そうした株主にエグジット(株式の売却・資金の回収)機会を与えたいとの一念からだったのだ。

 そういう意味では、今回の会社売却で、千本氏の長年にわたったエグジットの機会作りはようやく完結することになる。

 では、もう一方の当事者、買い手の孫社長は、大変な高値掴みをしたのだろうか。

 モバイル参入時に、英ボーダフォンからボーダフォン・ジャパンを法外と評された価格で購入した過去を持つ孫社長だけに、今回もそうした厳しい見方が出るかもしれない。

 しかし、今回に限っては、そうした批判的な見方が正しいと決め付けるのは早計だろう。

 当の孫社長は、記者会見で、iPhone5の世界標準バンドになりつつある1.7GHz帯の周波数をイー・アクセス買収(完全子会社化)によって共同利用できることのメリットの大きさを誇示してみせた。

 さらに、3.9世代通信と言われるLTEの基地局の共有化、ネットワークの相互利用、グループとしての契約者数ランキングでau(KDDI)を追い越すこと(業界2位の座の獲得)など様々な利点をあげて、今回の買収が高値掴みでないと繰り返し強調したのだ。

プラチナバンドがドコモやauの2倍

 これらのポイントが、ソフトバンクにとって魅力だったことは事実だろう。

 しかし、イー・アクセス買収の本当のメリットは、孫社長が会見でほとんど触れなかったところにある。

 というのは、イー・アクセスは今年6月、今後、携帯各社の基幹サービスを提供する周波数の主戦場となる700MHz帯の周波数を総務省から獲得しているのだ。この帯域は、使い勝手の良さからプラチナバンドと呼ばれているものだ。しかも、イー・アクセスが獲得した帯域は、NTTドコモ、auと同幅で、同社の企業規模を考えれば膨大である。

 一方、ソフトバンクは他の3社に先駆けて、今年3月、すでに700MHz帯に電波特性がよく似た900MHz帯の周波数を獲得している。つまり、ソフトバンクグループは貴重なプラチナバンドをドコモやauの2倍も占有することになるのである。

 周波数がなければサービスができない利権ビジネスの携帯電話ビジネスにおいて、この差は決定的な成長力の差になり得る。ラフに言えば、ソフトバンクグループが収容可能なユーザー数が、ドコモやauの2倍になるからだ。逆に、収容するユーザー数が同じなら、設備コストを半分以下に抑える戦略を採ることが可能になる。

 今回の買収規模は2000億円程度になると言うが、長年、導入論議が続いている電波オークションが実現していれば、プラチナバンドの周波数の獲得には、最大で、今回のイー・アクセス買収の10倍程度のコストがかかっていても不思議はない。

 千本会長だけでなく、孫社長も満面に笑みを浮かべて記者会見に臨んだ本当の理由は、ここにあると見てまず間違いない。

 ただ、それほど強力な武器だけに、両者の思惑通り、このまま、すんなりと事が運ぶとは言い切れない。

 紙幅も尽きてきたので、次回は、そうした孫社長の戦略の問題とともに、日本の公益事業の競争政策にも視野を広げて現状を検証してみたい。

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