【注目の人 直撃インタビュー】   国際弁護士・猿田佐世氏 予定調和の日米関係を打破すべき

注目の人 直撃インタビュー
国際弁護士・猿田佐世氏 予定調和の日米関係を打破すべき
日刊ゲンダイ2016年3月7日

http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/176514/1


画像

猿田佐世氏「米下院の沖縄担当トップでも“辺野古”という単語を知らない」(C)日刊ゲンダイ

 次の米大統領は誰になるのか。日本への影響は?スーパーチューズデー以降、米大統領選への関心が高まっているが、ここで押さえておきたいのは、こと日米関係に限って言えば、誰がなっても変わらなかった過去があることだ。ホンのひと握りの「知日派米国人」と日本の官僚、政治家、大企業、メディアによる「ワシントンの輪」みたいなコミュニティーがあって、そこで予定調和的に物事が決まってしまう傾向があるからである。このシステムに敢然と挑もうとしているのが国際弁護士であり、新外交イニシアティブ事務局長の猿田佐世氏だ。

■辺野古の基地も集団的自衛権行使も日本政府が望んでいる

――猿田さんは日米で弁護士資格を取られている。稲嶺進名護市長の訪米を企画運営されたり、翁長雄志沖縄県知事の訪米でも同行国会議員、県議団のアレンジをされるなど、基地問題を巡り、ワシントンを動かすロビー活動を積極的にされている。キッカケはあまりにも米国の連邦議会議員が沖縄を知らないことに驚かれたと聞いていますが?

 そうです。2009年に鳩山首相が普天間基地の沖縄県外移設を提案しました。その際、米下院の沖縄問題を担当するアジア太平洋小委員会のトップの議員に私が会ったら、辺野古という単語も知らないばかりか、「沖縄の人口は2000人か?(正解は140万人)」と聞くんです。このとき、辺野古移転を求めている「米国」って、一体、誰のことを指すのだろう、と思いました。

――沖縄問題担当の議員ですら何も知らない?

 昨年、米国の軍事予算を決める国防権限法の文言を変えるためにロビー活動をしました。条文に「辺野古が唯一の選択肢」という言葉が入っていたので、削除を働きかけました。すでに下院では法案が通っていたのですが、ロビーしていても下院議員はこの条文の存在すら知らなかった。削除を求めるのに基地問題の最初から話さなければなりませんでした。最終的にこれを削除することに成功しました。

――しかし、日本では辺野古移転も米国、米軍の意向であるかのように伝えられていますよね? その米国っていうのは、誰なのか? ジャパンハンドラー、知日派って呼ばれる人たちですか?

 日本に対して影響力があるのは、確かにそうした人たちです。でも、彼らが自分たちの意向を米国の意向として日本に押し付けているかというと、それだけでなく、実は日本の意向もある。日本政府は莫大な資金を米国のシンクタンクに提供したり、米国でロビイング活動をしたりしています。そうやって、知日派やシンクタンクを動かして、自分たちが日本で進めたい政策を米国から後押ししてもらう。そういう構図もあるんですね。2014年の夏前、稲嶺市長と訪米した時に日本の河井克行さんという衆院議員がワシントンに来ていた。ちょうど集団的自衛権行使容認の閣議決定の前です。日本メディアが山のように集まっていて、何事かと思ったら、知日派の代表格であるアーミテージ元国務副長官やマイケル・グリーン元国家安全保障会議アジア上級部長らと会談し、彼らに「集団的自衛権の閣議決定を100%支持する」ということを言ってもらったんですね。河井さんが会談の中身を記者に話すと、メディアは大きく取り上げていました。知日派の発言が米国の意向として大きく報道されるのです。だから、河井さんはわざわざ米国まで来て、会談した。

――日本の読者は、米国が日本に集団的自衛権行使を求めているんだと思いますね。

 ワシントンの知日派、シンクタンクなどを通じて、日本の意向を拡大させる。私はこれをワシントンの拡声器効果と呼んでいます。JETRO(日本貿易振興機構)のCEOがワシントンの有力シンクタンクで基調講演し、それを日本で大きく報道させる。そういうこともやっています。ただし、思ってもいないことを米国の知日派に言わせるのであれば、捏造、偽造ですが、そうではありません。相乗効果としての「拡声器」効果という言葉が適切だと思います。


画像

「限られた人だけでなく、別の政治家・専門家との関係構築も必要」(C)日刊ゲンダイ

■米国では反対運動が盛り上がっているTPP

――その拡声器効果のために、日本政府はどれぐらいのお金を使っているんですか?

 ブルッキングス研究所には日本大使館から2900万円(2013年)、JICA(国際協力機構)から2500万~3000万円(2012年)、CSIS(戦略国際問題研究所)には日本政府から6000万円以上(2014年)と、米国側が公表した数字はありますが、知り合いの新聞記者が日本の各省庁に取材したところ、日本からそういう数字は出てこなかった。出どころが不透明なんです。日本政府が2013年までに3年間で1億3600万円を払ったロビイスト事務所はTPP推進議員連盟を米国議会内につくってます。

――TPPも米国からの外圧のように報じられていますが、日本が議員連盟をつくらせたわけですか?

 米国ではTPPに慎重な態度をとる人も多い。今では米国の方が反対運動が盛り上がっているくらいです。

――日米関係に影響力を持つ知日派と呼ばれる人はどれくらいいるんでしょうか?

 私のインタビュー調査では5~30人との回答でした。

――たったそれだけですか? だとすると、大統領が誰になっても日米関係はそうした人が仕切ることになる?

 トランプ、サンダースがあれだけの人気を得ていることでも分かるように米国は多様性の国です。でも、そもそも日本への関心があまりないんですね。日本自体は経済大国だし、米国にとっても重要な国ですよ。しかし、日本はずっと米国の意向に反することは基本的にやらないので、米国も日本に対して新しい政策を打ち出す必然性がない。新大統領が今までと異なる対日政策を考える発想そのものがないと思います。

――それは日本側にも問題がありそうですね。

 米国は日本のことをとても与しやすい国だと思っているでしょうね。近年日本が従来の日米関係から少し踏み出した政策を打ち出したのは鳩山首相の時くらいです。だから、5~30人の知日派、エキスパートがいれば十分なのです。米国には中東や欧州の専門家はもっと多いんですが、それは一筋縄ではいかない国が多いからです。

――先ほど、拡声器効果の話をされた。それもあるでしょうが、外務省が米国の顔色をうかがっている。言いなりになっている。そんな部分もあるんじゃないんですか?

 官僚はすごく優秀だし、懸命に仕事をしておられる。ただスムーズな日米関係こそが国益に資すると考える方が多いのではないでしょうか。

■沖縄返還を言い出せなかった忖度(そんたく)外交の過去

――もっと日本側が主張すれば、米国の日本の見方も変わるんじゃないですか?

 そう思います。鳩山さんみたいに「県外移設」という政権が続くとなれば、米国も対応を真剣に検討しなければ、ということになる。

――辺野古移転にしてもアーミテージ氏ですら「県民が反対であれば造れない」みたいなことを言っていますよね? 日本政府が辺野古を譲らないのは誰の意思なのか。忖度なのか、遠慮なのか。

 最終的には日本政府が「辺野古しかない」という選択をしているんですよ。アーミテージ氏は「ダメなら代替案を出せ」と言っているし、同じく知日派の代表格、ジョセフ・ナイ・ハーバード大教授も「中国に近すぎる」と言いました。米国のスタンスは「何が何でも辺野古」ではなくて、「日本が辺野古でいいというから、それでいい」というもの。日本が造ってくれるなら、喜んで受け入れる。そういうスタンスだと思います。1960年代に沖縄返還交渉の際に米国側の交渉担当者だったモートン・ハルペリンさんを日本にお招きし、講演などをセッティングしたことがありました。沖縄返還交渉の時に日本政府が「返還してほしい」と言わないので、「返して欲しいならそう言ってくれ」とわざわざ言ったそうです。忖度なのでしょうが、これでは外交になりません。また、限られた米国の人々とやりとりをするだけではなく、別の政治家・専門家との関係も構築して、そこにも人間関係をつくっていかなければならないと思います。

――安倍政権はどうなのでしょうか? 集団的自衛権の行使は外圧や忖度ではなく、自分がやりたいようにみえますね。

 安倍首相には軍事力に対する強い信奉があるように思います。軍事予算を増やし、軍需産業を育てて立派にしていきたい。安倍さんだけでなく、周辺もそういう価値観なのだと思います。

▽さるた・さよ 1977年生まれ。早大法卒。コロンビア大で法学修士。アメリカン大で国際政治学修士。日米で弁護士登録。2013年に国境を超えて政策提言、情報発信するシンクタンク「新外交イニシアティブ」を創立し、事務局長として活躍中(会員募集中)。評議員には元内閣官房副長官補の柳沢協二氏やジョージ・ワシントン大教授のマイク・モチヅキ氏、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏がいる。

「虚像の抑止力 沖縄・東京・ワシントン発安全保障政策の新機軸」 新外交イニシアティブ編(旬報社 1,512円税込)


画像






虚像の抑止力 [ 新外交イニシアティブ ]
楽天ブックス
沖縄・東京・ワシントン発安全保障政策の新機軸 新外交イニシアティブ 旬報社発行年月:2014年08月


楽天市場 by 虚像の抑止力 [ 新外交イニシアティブ ] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル


基本情報
発売日: 2014年08月
著者/編集: 新外交イニシアティブ
出版社: 旬報社
サイズ: 単行本
ページ数: 193p
ISBNコード: 9784845113606

【内容情報】
集団的自衛権の行使容認、辺野古移設の強行着工…日米外交の歪みを象徴する“沖縄米軍基地問題”。外交・防衛・安全保障の専門的見地から政策の「あるべき姿」を発信!

【目次】
普天間基地問題にどう向き合うかー元防衛官僚の視点から
海兵隊沖縄駐留と安全保障神話ー沖縄基地問題の解決にむけて
日米の盲目的な主従関係が招く沖縄支配
抑止力と在沖米海兵隊ーその批判的検証
座談会 沖縄基地問題の分水嶺ー抑止力・集団的自衛権・県知事選
豊かな外交チャンネルの構築を目指してー新外交イニシアティブの取り組み

【著者情報】
柳澤協二(ヤナギサワキョウジ)
新外交イニシアティブ理事。1946年東京都生まれ。70年東京大学法学部卒業後、防衛庁入庁、運用局長、人事教育局長、官房長、防衛研究所長を歴任。2004年から09年まで、小泉・安倍・福田・麻生政権のもとで内閣官房副長官補として安全保障政策と危機管理を担当。現在、NPO国際地政学研究所理事長

屋良朝博(ヤラトモヒロ)
1962年沖縄県生まれ。フィリピン大学を卒業後、沖縄タイムス社入社。92年から基地問題担当、東京支社を経て、論説委員、社会部長などを務めた。2006年の米軍再編を取材するため、07年から1年間、ハワイ大学内の東西センターで客員研究員として在籍。2012年6月に退社。現在、フリーランスライター

半田滋(ハンダシゲル)
1955年栃木県生まれ。下野新聞社を経て、91年中日新聞社入社。東京新聞編集局社会部記者を経て、2007年8月より編集委員、11年1月より論説委員兼務。93年防衛庁防衛研究所特別課程修了。92年より防衛庁取材を担当。2004年、中国が東シナ海の日中中間線付近に建設を開始した春暁ガス田郡をスクープした。07年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリズム基金賞(大賞)を受賞

モチヅキ,マイク(モチズキ,マイク)
新外交イニシアティブ理事。1950年石川県生まれ。米国テキサス州で育つ。ジョージ・ワシントン大学教授。ハーバード大学にて博士号取得。専門は日本政治および外交政策、日米関係、東アジア安全保障。南カリフォルニア大学およびイェール大学で教鞭をとり、ブルッキングス研究所シニア・フェロー、ランド研究所アジア太平洋政策センター共同部長などを歴任。99年より、ジョージ・ワシントン大学エリオットスクール(国際関係学)のAsian Studies(アジア学)のためのガストン・シガール記念センター・日米関係教授。現在はエリオットスクールの副学長、シガール記念センターの研究プロジェクト“Rising Powers Initiative”の共同責任者も務める

猿田佐世(サルタサヨ)
新外交イニシアティブ事務局長。1977年愛知県生まれ。東京都で育つ。2002年日本にて弁護士登録、08年コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。09年米国ニューヨーク州弁護士登録。12年アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。自らワシントンにてロビーイングを行う他、沖縄・日本の国会議員・地方議会議員、各団体等の訪米行動を企画・実施。大学学部時代から現在までアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ等の国際人権団体で活動


ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0