【倉重篤郎のサンデー時評】番外編 剛腕健在!小沢一郎すべてを語る 安倍政権はもはや“自民党”ではない

倉重篤郎のサンデー時評
番外編 剛腕健在!小沢一郎すべてを語る 安倍政権はもはや“自民党”ではない
毎日新聞2016年5月25日
Texts by サンデー毎日

http://mainichi.jp/sunday/articles/20160523/org/00m/070/007000d


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▼野党が勝てる“秘策”とは…

▼安倍首相はダブル選準備に入った

 内外共に激動の政治状況を政局の練達の士・小沢一郎が斬る! ダブル選、消費増税、景気、熊本地震、オバマ来日と課題が山積。加えて著しく不安定化する米中露。安倍政権では対応できないと断じる小沢の展望とは?「サンデー時評」の倉重篤郎が迫る。

 この政局はどう動くのか。難しい局面に入った。

 週央以降は伊勢志摩サミット、オバマ大統領の広島訪問という外交上のビッグイベントが続く。安倍晋三首相が世界のリーダーとして最も注目される舞台が出来上がる。内政も大きな節目を迎える。国会会期末の法案処理、消費増税の取り扱い、解散総選挙の時期判断、あらゆる政局重大事項が団子状態でやってくる。

 言うまでもなく、政局の核心はダブル選挙を打つか否か、消費増税を先送りするか否か、の2点にある。ダブル選は熊本地震でなくなった、との説が広がったが、ここにきてその可能性がまた出てきたとの見方もある。メディアの見立ても、朝日、日経2紙が地震発生直後に「ダブル選せず」と決め打ちしたのに対し、読売、毎日はなおその可能性を捨ててないように見える。来年4月に10%に引き上げることになっている消費税率の扱いも、先送りするとの観測が圧倒的だが、これもまだ両説ある。

 小沢一郎氏に政局の行方を質(ただ)すことにした。

 氏が二重の意味で「政局の練達の士」であるからだ。政局を読む力、政局を動かす力で、この二十数年、彼が永田町で傑出した存在であったことを疑う人はいない。齢(よわい)74。「動かす力」はさすがに衰えたが、「読む力」は健在に見える。以下は小沢氏へのインタビューである(5月17日実施)。

「異次元金融緩和」は違法行為!?

「政局全体では、僕はまだダブル選があると思っている。安倍さんは着々とその準備をしている。先日も消費増税先送りをサミット後に表明する、と『日経新聞』がすっぱ抜いた(5月14日付朝刊「首相、消費増税先送り 与党幹部に伝達」との報)。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)もこの国会で無理をしないし、オバマを広島に連れて行くなど、僕にはダブル選の準備としか見えない。一方で野党はまとまっていない。ダブルの可能性は十分ある」

─米大統領の初の広島訪問自体はウエルカムなのではないか。

「悪いということはない。ただ、広島に来て何を言うのか。何も言わないというが……。少なくともメディアが良かった良かった、となるから、安倍政権の手柄になる。野党にとっていいことはない」

─熊本地震も政権にとってマイナスになっていない?

「いない」

─ダブル選から一歩引いたように見えたが。

「不謹慎と言われるから引いた。熊本地震も大変な災害だが、それでダブル選をやる、やらないの決断をするとは思えない。ただ、やらない場合の理由にはなる」

─災害では保守バネが働くともいう。広島も熊本もそうだが、安倍氏は強運の政治家との印象だ。

「そう思う。親父(おやじ)さんの運までもらったんだね。(首相一歩手前の段階で病魔に倒れた)安倍晋太郎先生の不運の分が全部息子に来たんでしょう。

 ただ、この強運がずっと続くとは思わない。政治、経済両方とも深刻になりつつある

 経済が悪くなっている。個人の収入が減っているのに、消費マインドが増えるわけがない。エンゲル係数(家計の消費支出に占める飲食費の割合)が急上昇している、という。日本経済はこのままいくと本当に破綻するのではないか。

 何よりも日銀の異次元金融緩和は違法行為だ。新発国債をいったん市場に出し、そこで売買する形にはしているが、実態は全部日銀が購入しており、財政法5条が禁止する日銀の国債引き受けにあたる。それを平気でやっている。戦時国債だけですよ。ああいうことが許されるのは」

─この政策の行きつく先は?

「これだけ滅茶苦茶(めちやくちや)お札を刷ると、2%のインフレ目標に達するどころではなくて、ある時点でハイパーインフレになる」

─いつ?

「神様じゃないからわからない。だが、日本の円が他国通貨に比べて安定しているのは、郵貯であれ、年金基金であれ、国富がまだ金融資産という形で残っているからであって、これが限界を超えた時にいっぺんにアウトだ。国債が暴落するという小説(幸田真音(まいん)著『日本国債』2000年)があったが、現実になる可能性がある。

 ハイパーインフレになってしまったら国民生活は滅茶苦茶だ。地獄を見るのではないか。戦後の混乱期と一緒だ。それを救うためにも野党がもっと頑張らなければ」

─そこで、野党結集の現状をどう見る?

「このままでは自公に勝てない。統一候補という形で1人に絞る作業は進んでいるが、僕はまだまだと思う。国民側から見て、自公に代わる受け皿になってない。

 そのいい例が衆院北海道5区補選(4月24日実施)の敗北だ」

─いいところまではいった?

「いいところといっても、1万2000票離れている(自公候補13万5842票、野党4党推薦候補12万3517票、投票率57・63%)。中身を分析すると、09年の政権交代選挙の時の投票率(76・28%)に比べると約2割落ちている。これは無党派の浮動票で、この人たちが投票に行かなかった。

 ただ、無党派の投票動向を見ると7が野党、3が与党になっている。だから2割の7割が野党に入れる人たちなんだ。日本全国でいうと有権者の2割は2000万票で、その7割は1400万票。だから、この人たちがきちんと投票に行けば、従来の野党支持層にこの人たちの票が加わり、圧倒的な勝利になる。09年がそうだった。

 つまり、真の受け皿効果を発揮できていない部分をどうするか。ここが最大の問題だ。投票日が7月10日としたら、あと50日。もう時間がないけど、公示までの間に、これならば野党が本当に団結したな、という姿を国民に見せることができれば、まだ間に合うと思う」

安倍政治は初期資本主義のやり方

─政策的対案はどうするのか?

「自公に先を越されている。民進党が結論を出せない。原発も、TPPも。安保法制廃止だけは決まったが……。

 安倍政治の最大の問題は、自由競争、市場競争万能主義だと思う。これは弱肉強食の初期資本主義のやり方で、貧富の格差をもたらし国家社会をおかしくした。その克服策として、一方で共産主義、社会主義が生まれ、資本主義は社会保障制度やセーフティーネットを取り入れた修正資本主義として持ちこたえてきた。安倍さんの考えは、その人類の知恵と歴史的努力を真っ向から否定するものだ」

─市場主義は、むしろ小泉純一郎政権の方が強かった。

「そうだ。だが、まだ彼には旧来の自民党的体質があった。どこの地域の人もどんな階層の人も一定の生活ができるように、という、民の暮らしを慮(おもんばか)る仁徳天皇の『民のかまど』的な政治があった。それが自民党、日本政治の哲学だった。だから、自民党は地方ばかり面倒見ると言われながらも、富の配分の公平さを心掛けた。それがなくなった。今の安倍自民党は、自民党ではないね」

―自民党には安倍氏以外にも人はいる。

「安倍さんに文句言う人は一人もいないんだからしようがない」

─安倍氏には、岸信介元首相的な計画経済的要素もある、と言われている。

「どうなのかな。そこは」

─今回も同一労働同一賃金とか、介護対策とか、配分政策を先取りしている。

「誰がついてるか知らないが、野党が言うべき政策を先取りしている。ただ言葉だけだ。現実の政治に反映されていないが、パフォーマンスが実に巧妙だ。野党がぼさっとしている」

―さて、その野党陣営を残された期間でどうまとめる?

「いまだに、共産党がどうとか、社民党がどうとか、小沢がダメとか言ってるが、そこがもう一皮むけなければだめだね。民進党が旗振れば簡単なんだ。そしたら皆集まる。旗振りがいない。何かの形でつくらなければ」

―小林節さん(5月9日に新政治団体「国民怒りの声」を旗揚げ)はどうか。

「もう少し広範囲な人材、分野の人が決起してもらうといい。そうなれば国民の見る目も違ってくるのではないか。だから僕は小林さんにはまだ期待している」

―やはり、統一名簿方式か?

「俗にいうオリーブの木(1995年、イタリアで12の中道・左派政党が緩やかな連合体を組み総選挙で右派政権に勝利)だ。社民党や共産党が解散するわけじゃないんだから」

―亀井静香さんらが打ち上げた「さくらの木」構想は不発だった。

「散っちゃったな」

米の不安定、中国の独裁、北朝鮮は!?

―冷戦が55年体制を作り、冷戦崩壊ではあなたが自民党を飛び出し保守二党体制化した。安全保障環境の構図変化は国内政治勢力の再編につながる。今回も中国台頭、米国後退という変化に応じた必然的な動きのような気がする。

「おっしゃる通りだ。だから僕は必ず何とかなる、と思っている」

―その動きが共産党から出てきた。不思議だ。

「彼らもずっと野党では、自分たちの主張が実現できないことがわかったのではないか。純粋なマルクス・レーニン主義で今の世の中通るわけはない。民主主義の仕組みの中で理念・政策を実現していこうと」

―それがようやくわかった?

「と思う。だけどあの主張を根本から変えるというのは志位(和夫委員長)さんの大した決断だよ。不破(哲三前委員長)さんの時からそういう傾向があった。それだけの時の流れが必要だったんでしょう」

―野党陣営はその共産党の変化をなぜ活用できないのか。

「そこが信じられない。共産党とは嫌だというのは。世の中は抵抗感がなくなってきている。だから600万票を取るんだから。これを十分に利用して政権を変えなければだめよ」

―国際政局についても聞きたい。まずは米国のトランプ現象をどう見る?

「米社会がいびつになっている。共和、民主両党ともに今までと全く異なった予備選になっている。共和党はトランプという異例、異質の人があれだけ人気を博している。クルーズも理論右翼、共和党でもすごく右の人だ。その2人が争って結局、型破りのトランプが勝った。民主党は今はクリントンが勝っているが、ゆがんだ格差社会の中でのエスタブリッシュメントへの反発があり、サンダースが民主社会主義を唱えてあれだけ戦っている。米社会が健全性を失ってきている証しではないか。トランプとヒラリーが戦ったらトランプが勝つ可能性がある。既存の勢力より、あれは何をやるかわからないが面白いやつだとなるかもしれない」

―日米関係も変わる?

「大統領になればそんな無茶(むちや)なことはしない。ただ、(日米安保については)お前らも責任果たせと言ってくる。だが、それは当たり前のこと。日本だけがぬくぬくと何の犠牲も払わず、平和を享受するなんてことはありえない」

―安倍路線に対する追い風?

「ありうる。安倍さんはそれを利用して大国日本を作りたいわけだ。だけど、雰囲気の追い風にはなるが、安保でも経済でもトランプ大統領が思い切ったことを言ってきたら、それには対応できない。安倍政権にも日本の政治にも、その能力はない。安保ただ乗り論を言われているようではダメだ」

―中国は?

「中国は不安定だ。独裁と自由市場とは両立しない。習近平政権が独裁化を強めているのは政治経済情勢が不安定だからだ。政権が安定しているときは民を抑えるような政策はとらない。歴史の言う通りだよ」

―日露はどうか? 安倍・プーチン間で北方領土問題を解決しようという流れになっている。

「うまくいくわけがない。領土は普通では返ってこない。(2島ですら)返ってこない。もう軍事基地を造っているじゃない。戦争で獲得した領土を返したのは米国だけだ。沖縄と小笠原がそうだ。その点は米国は偉いが、ロシアにその気はない。ロシア人は中国人以上に相手にしにくい。中国人も煮ても焼いても食えないが、一度信用したら、その信義は守る」

―北方領土交渉は小沢自民党幹事長時代にもあった(1991年、訪ソしゴルバチョフ書記長と会談、経済支援と引き換えに妥結というシナリオがあったという)。

「ゴルバチョフがもう少し力が強ければ(返還の)可能性があった。権力がもう下り坂に入っていた。プーチンがどういう考えかは知らないが、経済的に貧困な極東ロシアを日本の経済圏に引っ張り込むような長期戦略で行く手はある」

―北朝鮮はどうか?

「中国との関係が合わなくなっている。中国がコントロールしている間は大丈夫だろうが、中国共産党政権が不安定になり、その統制がさらに緩むと、北が食えなくなる。次は暴発だ。南下の可能性がある」

―この流動化する国際情勢を、日本政治はどう生き抜くべきか?

僕は最後まであきらめない

「その荒波に翻弄(ほんろう)されて日本丸は沈没しかねない。だから早く日本に議会制民主主義を定着させなければいけない。そのためには、もう一度政権交代しなければ、というのが僕の持論だ。安倍政治には対応できない。責任が取れないし決断もできない。

 戦前の昭和史もそうだった。軍需産業で大陸に進出して大不況を一時的に克服したが、そんなのは続くはずがない。誰が悪いというわけではないが、皆でわあわあやって、何の知恵もなく、誰も責任を取らず結局戦争になった。今はどうか。経済がおかしくなったということで、防衛装備品や原発をどんどん輸出している。同じ轍(てつ)を踏んではいけない」

 さて、小沢氏が目指すレベルの野党共闘は果たして実現するか。それは一に民進党の岡田克也代表と小沢氏が再び手を組めるかどうか、にかかっている。岡田氏からすると、同党内にある根強い小沢アレルギーを抑え込んでまで、といったところだろうか。

 二人に親しい同党長老の輿石東(こしいしあずま)参院副議長は、小沢氏の選挙、政局手腕を野党共闘に使うべきだと、何度か両者の間を仲介してきた。毎回二人ともわかった、とは言うものの、そこからが進まない、という。小沢氏にはもう一段胸襟を開いて話し合うよう求めたい、というのがこの選挙で引退する輿石氏の期待であった。その旨を小沢氏に伝えると次のような返事だった。

「僕は言うことを全部聞いている。2003年、民主、自由両党が合併した時も、岡田君が民主党幹事長だったが、政策も全部言う通りにした」

「僕は最後まであきらめない。バッジつけている限りは、事が成就するまで頑張るつもりだ」

 ■人物略歴

おざわ・いちろう
 1942年東京都生まれ。衆議院議員。生活の党と山本太郎となかまたち共同代表。政局への独自の勘を持ち、長年政界のキーマンであり続けている。

 ■人物略歴

くらしげ・あつろう
 1953年、東京生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

(サンデー毎日2016年6月5日号から)


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