【書評】 『終戦と近衛上奏文』  「陰謀史観」がいかに政府の意思決定に作用したか

【書評】「陰謀史観」がいかに政府の意思決定に作用したか
NEWSポストセブン2017.02.04 16:00

http://www.news-postseven.com/archives/20170204_488918.html


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【書評】『終戦と近衛上奏文 アジア・太平洋戦争と共産主義陰謀説』/新谷卓・著/彩流社/4500円+税

【評者】大塚英志(まんが原作者)

 ポストファクトの時代の助走としてあったのは陰謀史観の公然化である。トランプの主張に地球温暖化中国陰謀説などの「陰謀史観」が多く紛れ込んでいるが、日本でもヤフーニュースのコメントなどで「サヨク」の「勢力」が「反日」的陰謀によって蠢いているかのようにしばしば語られている。SNSが世論を形成する時代には政権選択にまで反映する。

 本書は「大東亜戦争」は、軍や政府に潜入した共産主義者が、戦争による疲弊に乗じて共産主義革命を起こそうとしたものだ、だから「国体」の変更を求めない英米との終戦を探るべきだという近衛文麿の敗戦直前の上奏文の背景にある「陰謀史観」成立の経緯と、何よりその「史観」がいかに戦時下の軍や政府の意思決定や事件の要因として作用したかを丹念に追う。

 陰謀史観を論破するのは相手が「事実」に立脚することを拒むので悪魔の証明に等しい。愚かだと嗤ったところで通じない。「事実」を信じようとしない時代に必要なのは陰謀史観が陰謀史観であることの論破でなく、それがいかに現実に対し作用してしまうかを知ることだ。

 ぼくは以前、終戦直前、柳田國男の周辺にオカルト系陰謀史観の関係者が出入りしたことに注意を促したことがある。戦時下、この国の中でイデオロギーとは別に「合理」と「非合理」の暗闘があり、「合理」の側が共産主義陰謀史観では「アカ」と名指しされた。ポストファクトの時代はこの戦いが一挙に可視化されたと言える。

 戦後刊行された「敗戦」に至る過程までを共産主義の陰謀と説く書には、岸信介が序を寄せている、というが、「論壇」にいた若い頃、真顔でこの「史観」を語る人を幾人も見た。「論壇」や政治周辺の裏で語られてきたこの種の「陰謀史観」がSNSによって表層に拡散し、「世論」の基調に潜り込んでいるのが「真実後」の時代だ。「陰謀」でなく「陰謀史観」がいかに現実の歴史を動かし得るのか。本書が示した「歴史観」で「現在」を見ることが重要である。

※週刊ポスト2017年2月10日号

「終戦と近衛上奏文」 新谷 卓著(彩流社 4,860円税込)


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【内容情報】(出版社より)
多くの謎を含み、様々に解釈されてきた「近衛上奏文」を
現代史に位置付ける労作!

 「満州事変・支那事変を起し、これを拡大し、遂に
大東亜戦争にまで導いたのは、
軍や政府にもぐり込んだ「国体の衣を着けたる共産主義者」
や彼らを背後で操っている国際共産主義者であり、
彼らは、日本を戦争へ誘導することによって社会を混乱させ、
これに乗じて共産主義革命を起こそうとしている。
国体を揺るがすのは、敗戦ではなく共産主義革命である。
英米は国体の変更まで考えておらず、一刻も早く英米との
戦争終結の方策を探るべきである。もともと米英および重慶の
目標は日本軍閥の打倒にあり、その軍部内に潜り込んだソ連と
結びつく「かの一味」を一掃し、その政策が改まれば、
英米も戦争の終結を考慮するにちがいない。
此一味を一掃し、軍部の建直しの実行こそが、
共産革命より日本を救う前提、先決条件である」。

 昭和20年2 月14 日、近衛文麿が天皇に上奏した文章は
驚くべきものだった。
これに関しては様々な意見──妄想説、陰謀説、賛否両論
──が出されてきた。
しかし、戦後70年余を経、
共産主義の幻影に脅えることの無い現在、
やっとその真相が、明らかになることとなった。





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新谷 卓 彩流社発行年月:2016年08月31日 予約締切日:2016年08月30日 ページ数:44


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商品基本情報
発売日: 2016年08月31日
著者/編集: 新谷 卓
出版社: 彩流社
サイズ: 単行本
ページ数: 447p
ISBNコード: 9784779122491

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
昭和20年2月14日、近衛文麿が天皇に上奏した文章は驚くべきものだった!多くの謎を含み、様々に解釈されてきた「近衛上奏文」の真相を“革命と戦争”“イデオロギーの世界内戦”と言われた20世紀の歴史の流れのなかで読む労作。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 共産主義陰謀説のルーツ満州
第2章 新体制運動と「アカ」批判
第3章 企画院事件と尾崎・ゾルゲ事件
第4章 ソ連情報と反共主義の拡大
第5章 近衛文麿と陸軍赤化説
第6章 東條内閣打倒と陸軍赤化説
第7章 「近衛上奏文」
第8章 陸軍による赤化説批判
終章 共産主義陰謀史観を再び考える
補論 反共産主義としての二十世紀

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
新谷卓(アラヤタカシ)
高校教員。明治大学大学院政治経済学研究科博士課程後期修了(政治学博士)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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