【書評】  絵師の魂 渓斎英泉 増田晶文著  東京新聞2019年3月31日

【書評】
絵師の魂 渓斎英泉(けいさい・えいせん) 増田晶文(まさふみ)著
東京新聞2019年3月31日

https://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2019033102000175.html



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◆渡る浮世 野心と迷いと

[評]日野原健司(太田記念美術館主席学芸員)

 渓斎英泉は、十九世紀前半、美人画のジャンルで一世を風靡(ふうび)した浮世絵師である。英泉が描く女性たちは、つり上がった目に、受け口ぎみの唇を少し開いた色っぽい表情が特徴的で、しばしば妖艶とも退廃的とも評されてきた。一般的な知名度はそれほど高くはないが、古くから根強いファンが多い。

 だがその妖艶な美人画以上に、英泉という人物の生涯はなかなかに興味深い。もともとは武家の生まれだったのだが、若くして両親を亡くした上に、主家(しゅか)を追われてしまう。三人の幼い妹たちを養うために浮世絵師の道を志し、独自の艶やかな美人画で一躍スターとなった。葛飾北斎(かつしかほくさい)の作風を慕い、戯作者(げさくしゃ)の曲亭馬琴(きょくていばきん)とも親しく交わる一方、放蕩(ほうとう)無頼の生活を送ることも多く、根津で遊女屋を営んでいたという時期もある。

 本書は、そんな英泉の半生、特に三十代から四十代にかけての時期を中心に描写している。目鼻立ちが整い、背もすらりと高く、たくさんの女性たちにも慕われていた遊び人の英泉。亡き義母への思慕が秘められた、色気あふれる美人画で確固たる地位を築き、深く敬愛する北斎を追い抜いてやろうという野心も抱く。しかしその一方、猥雑(わいざつ)な春画で著名になってしまったが故に、かつての武家の仲間たちから正当な評価を受けず、不安な気持ちに苛(さいな)まれてしまう。さらに、素行の悪い妹が面倒を引き起こしたり、貸した金が持ち逃げされたりするなど、さまざまな災難が次々と襲いかかり続け、浮世絵師としての自分の才能にも迷いが生じていく…。

 本書で描かれている英泉の人物像は、放蕩暮らしを楽しむ変わり者でもなければ、飄々(ひょうひょう)とした天才肌でもない。常に自信と不安に心を揺り動かされながら、絵師としての生き方にもがき苦しむ、実直で悩み多き等身大の男の姿である。本書を読み終えた後、英泉の浮世絵、さらには我々がよく知っている北斎や広重の浮世絵を改めて眺めてもらいたい。その裏に隠された英泉の情熱や葛藤を、きっと感じとることになるだろう。

(草思社・1944円)
「絵師の魂 渓斎英泉」増田 晶文著(草思社 1,944円税込)


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絵師の魂 渓斎英泉
草思社
増田 晶文

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絵師の魂 渓斎英泉 [ 増田 晶文 ]
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増田 晶文 草思社エシノタマシイ ケイサイエイセン マスダ マサフミ 発行年月:2019年01月23


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商品基本情報
発売日: 2019年01月23日
著者/編集: 増田 晶文
出版社: 草思社
発行形態: 単行本
ページ数: 352p
ISBNコード: 9784794223739

商品説明
【内容情報】(出版社より)
巨星・葛飾北斎を師と仰ぎ、千数百点もの美人画春画を
描きつづけた浮世絵師・英泉の波乱に満ちた生涯!

文化文政時代、千数百点にもおよぶ独特の妖艶な美人画・春画を残した浮世絵師・渓斎英泉。若くして葛飾北斎に私淑し、またその北斎に支えられつつ美人画・春画で一世を風靡、曲亭馬琴にも気に入られ『南総里見八犬伝』の挿絵を描く等の大成功にもかかわらず、絵筆を措いて女郎屋の主人に収まったりと波乱に富んだ人生を送っている。これまでは好色放蕩無頼の人物としてとらえられてきた英泉だが、本作では「絵」に賭ける果てなき渇望を持ち続けた真摯な人物としてまったく新しい英泉像が活き活きと描かれている。書き下ろし時代小説。

第一章 前夜
第二章 美人画
第三章 裏の絵師
第四章 世間
第五章 暗雲
第六章 災厄
第七章 青の時代
第八章 絵師の魂
終 章 富士越龍

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
巨星・葛飾北斎を魂の師と仰ぎ、思慕する女性の面影を求め続けた男。千数百点もの妖艶で頽廃的な美人画を描き残した浮世絵師英泉の浮沈と波乱に満ちた生涯を活写!

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
増田晶文(マスダマサフミ)
作家。1960年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。デビュー作『果てなき渇望』で文藝春秋ナンバー・スポーツノンフィクション新人賞および文春ベスト・スポーツノンフィクション第1位を獲得、『フィリピデスの懊悩』(『速すぎたランナー』に改題)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


 1960年生まれ。作家。著書『稀代(きだい)の本屋 蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)』『ジョーの夢』など。

◆もう1冊 

 朝井まかて著『眩(くらら)』(新潮文庫)。北斎の娘である絵師の生涯。



新潮社
朝井 まかて

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眩 (くらら) (新潮文庫)
新潮社
2018-09-28
朝井 まかて

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眩 (新潮文庫) [ 朝井 まかて ]
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新潮文庫 朝井 まかて 新潮社クララ アサイ マカテ 発行年月:2018年09月28日 予約締切日:


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【書評】  「社(やしろ)をもたない神々」神崎宣武著  東京新聞2019年3月31日

【書評】
社(やしろ)をもたない神々 神崎宣武(かんざき・のりたけ)著
東京新聞2019年3月31日

https://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2019033102000176.html


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◆鏡餅をめがけて降りる歳神

[評]川村邦光(宗教・民俗学者)

 著者は現役の神主である。古神道の祭式を伝承してきた最後の世代だと言い、民俗研究を踏まえて、神々の世界、とりわけ社をもたない神々と人々の交流する世界を、淡々と、時には熱く語っている。

 まず正月から語り始める。正月にこそ、神々の古層が潜んでいることがわかる。神々の世界の根底になっているのは、歳神(としがみ)、歳徳神(としとくしん)、お正月様などと呼ばれる、正月に訪れる神である。大みそかの晩は歳神を迎えるために、どこにも出かけないで、お籠(こも)りをしなければならない。歳神は歳を授ける。それが「歳魂(としだま)」、つまりお年玉であり、餅によって表象される。玉は魂であり、餅を腹の中に入れることが、新しい魂を授与されて生命を更新することになる。

 この歳神は社に祀(まつ)られているわけではない。どこにいるのか。山のほうから、門松や鏡餅を目印、依代(よりしろ)にして降りてくる。すると、山の神か。山の神は田植えの頃に里に降りてきて、田の神になるとされる。山から水が流れ、田畑を潤し、飲み水にもなり、海へ注いでいくように、山の神は水の神や井戸の神、海の神ともなる。

 また、祖霊は山中に住むとされ、いずれも歳神と「同類」のカミである。そして、集落の境や峠にも神々が祀られる。山頂、山腹、山麓、開墾地へと神々のネットワークは張り巡らされていった。

 霊山、巨木、巨岩が信仰を集め、山の神や田の神、塞(さい)の神、道祖神(どうそじん)、産神(うぶがみ)、地神(じがみ)、産土神(うぶすながみ)などの神々が、時と場合に応じて、人々の要請もしくは祈願に応えている。自然の中にあって自由に往来する、社をもたない神々である。しかし、著者が「多くの伝統的な生活が激変した」と嘆息混じりに記すように、高度成長期以降、これらの神々は祀られることが少なくなり、忘れ去られようとしている。

 こうしたアニミズム(自然信仰)の世界を生み出してきた遠い先祖に思いを馳(は)せ、ゆったりとした時を大切にすることが今求められている、と著者は説く。本書は社のない神々への挽歌(ばんか)ではなく、警世の書として読み継がれよう。

(角川選書・1836円)

 1944年生まれ。民俗学者。著書『酒の日本文化』『江戸の旅文化』など。

「社をもたない神々」神崎 宣武著(KADOKAWA 1,836円税込)


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社をもたない神々 (角川選書)
KADOKAWA
2019-01-18
神崎 宣武

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社をもたない神々 [ 神崎 宣武 ]
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神崎 宣武 KADOKAWAヤシロヲモタナイカミガミ カンザキ ノリタケ 発行年月:2019年01月


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社をもたない神々【電子書籍】[ 神崎 宣武 ]
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<p>歳神・田の神・山の神・塞の神・地神・産神・産土神ーーご先祖様たちが広大な自然や日々の営みから見


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商品基本情報
発売日: 2019年01月18日
著者/編集: 神崎 宣武
出版社: KADOKAWA
発行形態: 全集・双書
ページ数: 248p
ISBNコード: 9784047036246

商品説明

【内容情報】(出版社より)
歳神・田の神・山の神・塞の神・地神・産神・産土神ーーご先祖様たちが広大な自然や日々の営みから見出し、崇め祀り、連綿と子孫に託してきたものとは何か。
「我われの民俗学は、先学の落とした落穂を拾うようなもの」。師・宮本常一の言葉に導かれるように、日本各地に残る原初の多様なカミたちの足跡を探索。代々続く吉備・宇佐八幡神社の神主として、半世紀にわたり古神道(民間神道)を実践してきた著者が、いま急速に失われつつある「日本のかたち」を伝え残す。

序章ーー自然に宿る神々の群れ
第一章 歳神と田の神
第二章 原初に神体山あり
第三章 神宿る樹木とその森
第四章 境を守る「塞の神」
第五章 地神・産神と産土神
終章ーーまじないと流行神

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
歳神・田の神・山の神・塞の神・地神・産神ーご先祖さまたちが自然や日々の営みから見出し、崇め祀り、連綿と子孫に託してきたものとは何か。「我われの民俗学は、先学の落とした落穂を拾うようなもの」。師・宮本常一の言葉に導かれるように、各地に残る原初のカミたちの足跡を探索。代々続く宇佐八幡の神主として、半世紀にわたり古神道(民間神道)を実践してきた著者が、いま急速に失われつつある「日本のかたち」を伝え残す。

【目次】(「BOOK」データベースより)
序章 自然に宿る神々の群れ
第1章 歳神と田の神
第2章 原初に神体山あり
第3章 神宿る樹木とその森
第4章 境を守る「塞の神」
第5章 地神・産神と産土神
終章 まじないと流行神

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
神崎宣武(カンザキノリタケ)
1944年生まれ。民俗学者。旅の文化研究所所長。岡山県宇佐八幡神社宮司(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


◆もう1冊 

 谷川健一著『日本の神々』(岩波新書)。記紀以前のカミと人々の暮らしに迫る。

「日本の神々」(岩波新書)谷川健一著(岩波書店 885円税込)


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日本の神々 (岩波新書)
岩波書店
谷川 健一

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日本の神々 (岩波新書) [ 谷川健一 ]
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岩波新書 谷川健一 岩波書店ニホン ノ カミガミ タニガワ,ケンイチ 発行年月:1999年06月 ペ


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商品基本情報
発売日: 1999年06月
著者/編集: 谷川健一
レーベル: 岩波新書
出版社: 岩波書店
発行形態: 新書
ページ数: 225p
ISBNコード: 9784004306184
注記: 第8刷

商品説明

【内容情報】(「BOOK」データベースより)
かつて日本列島に住みなした人々は、風も樹も山もすべて「可畏きもの」をカミと考えた。すなわち災いをもたらすものも、稔りや大漁をもたらすものも、およそ人の力の及ぶべくもないすべての自然が畏怖の対象であったのだ。やがて天つ神に駆逐され、流竄の姿となっていくこれら神々の運命を辿りつつ、人々の暮らしの原像に迫る。

【目次】(「BOOK」データベースより)
第1章 神・祖霊・妖怪
第2章 外来魂と守護神
第3章 流竄の神々
第4章 創世神話の展開
第5章 生き神の思想と御霊信仰
第6章 神観念の拡大
第7章 神々を運ぶ海上の道
終章 回想の神々

【著者情報】(「BOOK」データベースより)
谷川健一(タニガワケンイチ)
1921年熊本県に生まれる。東京大学文学部卒業。専攻は民俗学。現在、日本地名研究所所長(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)